妥協のない一級品の作品づくり
――どんな時に、その「面白さ」を感じるのでしょう。
大川肇氏:
自分の思うようなものが、自然の状態から「形」になる時に「面白さ」を感じます。自然物から「形」を作ることの面白さは無限です。また、作ったあとには喜びを感じています。器を使ったお客様から「使いやすかったよ」とか「こういう木の温もりがいいね」などと言われると、職人冥利に尽きますね。
この世界に入って最初に言われたことは「作る数は重要ではない」ということでした。慣れてくると手を抜くわけではありませんが、ついつい一枚多く作りたくなります。そういった気持ちは、品物にも表れます。“丁寧に作って、自分のベストのもの、一級品のものを商品として出す”。これに尽きます。
一生勉強 一生職人
――作品にも色々な“顔”が見えてきます。
大川肇氏:
小田原漆器は、木地呂塗りによる木目の美しさを楽しめるのが特徴です。木目はそれぞれ違う表情をしています。こうした自然の木に対して、どう活かせるかを考えて作っています。年輪の方向を見て板の取り方を考えたり、木目の出方によって、お椀のふちの厚さも変えます。お椀の寸法は、昔から「手になじむ寸法」ということで、だいたい12センチ。女の人用の場合は、5ミリくらい違う3寸8分ぐらいと、使用目的や使う人によっても千差万別なんです。
小田原漆器には、碗だけでなく普段使い様の皿やお弁当箱など、値段も手ごろなものもありますので、まずは手にとっていただきたいですね。そしてできれば毎日使ってほしいと思っています。長く使ってほしいから、修繕も歓迎です。
私も、生涯現役を貫いた師と同じように、「一生勉強 一生職人」を目指します。伝統的なものも残しつつ、新しいものにも挑戦する。そうして出来上がった作品を通して、使う皆様との「出会い」を楽しみに、これからも励んで参りたいと思います。
(取材・文 沖中幸太郎)