「使ってもらってなんぼ」 伝統は生活の中で進化する
――伝統技術を現代の生活に融合させています。
土田直東氏:
代官山の蔦屋さんの文具コーナーにも置かれている蒔絵を施したiPhoneケースなど、従来の越前漆器の販路にはなかったものを広げています。祖父の名前を冠した食器「直右ヱ門」シリーズは、布着せや蒔時、木地呂塗などの先代からの技術の継承と、現代の生活にマッチさせた製品です。「堅牢」シリーズも、文化財の修繕にも使われる技術を用い、「食器洗い洗浄機でも1000回持ちこたえられる」という文字通り堅牢さを売りにしたもので、鯖江市の学校給食の器にも使用されています。
土田直氏:
私のころは、食生活をとりまく環境も、お膳にあぐらといったスタイルで、和食器が主流でしたが、今は椅子にテーブル。食事も和食だけではありません。洋食にも合うようなスープのお椀なども、手がけています。器や食器は「使ってもらってなんぼ」です。そうした食生活の変化に、我々も変化していく必要があると思います。「堅牢」の時も、食器洗浄機の時代に合わせたものですし、そのころと今では、漆に対する使い手の好みも随分変わったように思います。
その中で変わらないのは、使ってくださるお客様との関係。うちは個人のお客様から、ホテルや旅館、料亭、レストランなど企業のお客様までさまざまですが、新しくお届けするだけでなく、長年使っていただくために、修理ももちろん受け付けています。
――長く、使って欲しい。
土田直東氏:
漆器の魅力は、使い手が感じる経年変化にもあります。使えば使うほど、柄が色鮮やかに浮き出てくるものもありますし、使い方によって味が出てくること自体を楽しんで欲しいですね。
伝統は伝承にあらず 未来に向けた越前漆器のものづくり
――新しい取り組みで、越前漆器の魅力を広げられています。
土田直氏:
私は平成25年より、日本漆器協同組合連合会の理事長を務めさせていただいておりますが、今、漆器業界が一丸となって、ユネスコの世界文化遺産登録に向けて動き出しています。新しい取り組みや、産地の垣根を越えた協力で、漆器業界全体の活性化につなげたいと思っています。内側だけの目線ではダメなのです。
土田直東氏:
福井県には、越前漆器以外にも越前和紙、若狭めのう細工 、若狭塗、 越前打刃物、越前焼、越前箪笥と七つの国指定の伝統工芸品があるのですが、ここでも後継者不足は他人事ではありません。そこでひとつの産地だけでなく、みなで協力してアクションを起こしていこうと、立ち上がったのが「福井七人の工芸侍」です。
それぞれの産地には優れた技術を持ちつつも、その成果を見せる作品づくりを手がけたことがない職人さんもたくさんいて、そうした方たちに向けた伝え方、見せ方を共有する勉強会を開いています。またメンバーは伝統的工芸品の全国大会に出展したり、各種メディアへの取材を受けたりと、それぞれの魅力を発信しています。
鯖江の産地としての魅力は、伝統技術だけではなく、工業製品の産地として、プラスチックの形成やウレタンなどのスプレー塗装などの業務用の技術も持ち合わせているところです。そうした伝統と現代の技術の融合がしやすい土壌が、新しい取り組みを後押ししてくれています。この誇れる産地で越前漆器に携われる喜びを感じながら、私たちならではのものづくりを、これからもおこなって参りたいと思います。
(取材・文 沖中幸太郎)