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本物を追求する 山口光峯堂の誇り

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平安の時代から、熊野詣に訪れた旅人が記念に持ち帰っていたといわれる歴史深い那智黒石。その那智黒石のなかでも「玉(ぎょく)」と呼ばれる希少性の高い部分を使ってつくられた、山口光峯堂の那智黒硯は皇室にも献上される手彫りの逸品です。山口光峯堂に受け継がれる誇り、「本物」に向き合う姿勢とは。50年以上かけて技を培ってきた名匠、二代目山口光峯さんと、その誇りを受け継いだ三代目にお話を伺ってきました。

Items

石のささやき

曼荼羅の径

自然の恵み 那智黒石に感謝して



山口光峯氏:
明治のはじめごろから、熊野那智大社と那智山青岸渡寺(なちさんせいがんとじ)へと通じる表参道沿いには、那智黒石の硯を売る店が並んでいました。先代である父は、和歌山県新宮市で製材の仕事をしていましたが、門前町であるこの地を訪れた時、賑やかな人の流れを見て、新宮で作った硯を、この地のお土産物屋さんで売って頂く商売をするようになったのが、はじまりです。父は、昭和のはじめころ、この地に工房を構えてみずから硯を作り売りはじめました。硯を彫る機械を考案したのも、父でした。

山口光峯堂では、できあがった硯を試しずりして、納得していただいてから購入していただいています。ですから、対面販売にこだわっています。那智黒石で使う原石の中でも、「玉(ぎょく)」と呼ばれる大変貴重な部分を使用して作っていますが、採れる量にも限りがあります。素材と、採石される方に感謝しながら作っています。

三代目:
ここを訪れたお客様は「いつまでもすっていたい。」とおっしゃられる方もいます。硯に全く興味のなかった方も思わずほしくなるのがこの硯です。また、我々は確かに良いものを作るのが仕事ですが、本物を知っていただくための情報発信も必要だと思っています。ですから、お客様の顔が見える形での対面販売という形が、正しい知識を持ち帰っていただくうえでも大事なことなのです。

――その取り組みは、県の「名匠」として評価され、また「日本文化デザイン大賞」への受賞につながっています。



山口光峯氏:
「人間は生きている」と言われますが、私は何かの力で「生かされている」と思っています。せっかく生かされた人生を職人として生きる以上、妥協はしたくない。本物を追求したいという気持ちでやっております。硯には銘を入れていますが、これは覚悟の表明でもあります。もし不具合が出た時はいつでも送って頂けますし、無償で手直しさせて頂いています。

向き合いながら培った職人の覚悟



山口光峯氏:
私がこの世界に入ったのは、18歳の時でした。当初、父と同じ仕事に就く予定は無く、小さいころから機械や電機関連が好きだったこともあって、その系統の大学に進学する予定でいましたが、他に兄弟もなく継ぐことが決まっていましたので、「どうせなら」と早めに飛び込みました。そんな調子でしたから、はじめたころは、正直「ただ硯を作ればいい」という想い以上のものは持っていませんでした。

最初は、でこぼこした石の裏を機械で粗削りしたり、鉄板の上に砥石の粉をのせて裏擦りをしたりと、作業工程の部分ばかりで決して面白い仕事とは言えませんでした。迷いもありましたが、「継いだ以上は仕方がない。」と腹をくくってからは――不思議なもので、徐々に機械が自分の手足のように感じ、仕事にも愛着がわくようになりました。

工房での父は厳格で。手とり足とり教えてもらうことはなく、ただ「これを見ておけ」と、そんな人間でした。たくさん失敗もしましたが、そうやって徐々に技術と職人としての心意気を、父の背中から学んでいったように思います。

――徐々に覚悟を。



山口光峯氏:
覚悟が、理念に変わったのは昭和55年、30代のころでした。「機械彫りは画一的で面白くない。本物の手彫りの硯が作りたい。」と、父を説得してはじめましたが、最初は本当に注文がありませんでした。いつか本物の良さが分かって頂ける時が来る。そう思ってひたすら、作りました。

手彫りによる唯一無二の作品は、お客様との新たな心の交流を生み出しました。お礼の手紙は、日本各地から、海外へと広がっていきました。うちの硯を使って書いた作品で賞を頂いたとか、使うたびに日本での楽しかった旅行が思い出されるといった便りを頂くと、やっていてよかったと思いますし、もっとこれからだと力が涌きます。その繰り返しで、少しずつ手彫りの硯の良さを知っていただけるようになりました。


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