座って半畳 寝て一畳
吉田長四郎氏:
父が常々言っていたのは、約束を守るということ。納期も支払いも。材料やお金は、自分のものではなく、預かっているんだ、と教えられてきました。伝統よりも何よりも、それがよしだの誇りであり、受け継いできた理念です。良い時も苦しい時も、それを忘れない。「座って半畳、寝て一畳」この言葉は創業時の気持ちを表すもので、地道に、真面目に、正直に仕事をすることが、作り手や使い手の幸せにつながるものだと思っています。
――幸せは、お金を追いかけてもつかめない。
吉田長四郎氏:
幸せを感じるのは、良いものが出来たとき。そしてそれが届けられてお客様の笑顔につながった時です。ですから品質も妥協しません。やすりを使うサンダー仕上げが主流にあって、うちは円盤仕上げという工法を採っているのはそのためです。円盤仕上げだと、光沢が、桐の素材そのものの感覚が表れますが、サンダーだとそれを殺してしまい、その差は歴然です。うちはそういう箱は一切作りません。触った瞬間のぬくもりが感じられるものを届けたいと思っています。私は「捨てられる箱は作らない」と言っています。
まごころを届ける桐箱
吉田長四郎氏:
贈り物がある限り桐箱はなくならないと思っていますが、時代にあったものを作っていかなければ、生き延びていけないとも思っています。
――長芳さんは『木の会』の活動や、グッドデザイン賞を受賞した米びつの制作など新たな取り組みもされています。
吉田長芳氏:
ウェブサイトをリニューアルした時に、SNSを知り、そこから山形で木を使った色んな取り組みをしている人がいることを知りました。こういう人達と何か一緒にできたらいいなと思って、のちの『木の会』のメンバーとなる8人に会いに行ったのが始まりでした。
その『木の会』の中に、草島さんという女性のデザイナーの方がいて、その方の勤務先の社長さんの実家が米農家で、そこから米びつの話につながりました。グッドデザイン賞を受賞したこの米びつには、草島さんを始め、色んな人の知恵が集約されていて、とくに見た目の美しさや、ここで使われた技術は、『木の会』の渡邊さんという方に教えてもらったものです。伝統を守る方法は色々あって、こうした新たな取り組みも、またひとつ伝統を繋いでいくものだと思っています。
「人のまごころを贈る役割を、桐箱は担っている」と思っています。ある程度の技術は、それなりの年数を積めば誰でも習得可能ですが、そこから先はその作り手の心だと思います。技も磨くと同時に、心も磨いて、最高の箱づくりを今後も続けて参りたいと思います。
(取材・文 沖中幸太郎)