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加賀友禅の伝統と魅力を暮らしの中へ

今回のお相手

加賀友禅の伝統工芸士、友禅工房「文庵」の太田正伸さん。名刺入れや財布、スニーカーやライダースジャケットなど、加賀友禅の伝統の技を、現代に活かす取り組みで注目されています。伝統の中から独自性を見いだし、新たな活動へ進んできた太田さんの学びと挑戦の軌跡を伺ってきました。

作品一覧

加賀友禅 コースター

加賀友禅 ジャケット

加賀友禅 名刺入れ

加賀友禅 名刺入れ

加賀友禅 工芸スニーカー


「自分の道を究めよ」
 友人と邁進する加賀友禅の太田正伸の道



太田正伸氏:
11年が経ち師匠から独立を勧められたとき「自分のオリジナルを確立しろ」とアドバイスをいただきました。今まで師匠の作品を任されていた私には独自の図案を描いた経験が浅く、自分のオリジナルを作るということは至難でした。作品も幼稚に見え、もっとデザインの勉強をしなければいけないと感じていました。

そんな時出会ったのが、今も良きライバルの友でした。私たちは月に一度、互いの工房を訪れ、2~3枚の図案を持ち寄り構成の勉強を始め、やがて彼が習っていた陶芸家、長谷川塑人先生のもとを訪れるようになりました。先生からは、毎日図案を描くことは大事だと励まされ、図案構成の指導を受けるようになりました。「これは良いね」と言われながら図案を見てもらうのが楽しみで・・・きっと先生は褒め上手だったのでしょう。更に諸先輩方にも教わりながら自分なりの「もの作り」を身に付けていきました。



――師匠、友人、先輩のアドバイスと日々の勉強でオリジナリティを確立されていきます。



太田正伸氏:
いろんな方に叱咤激励されてここまできました。私は独立当初、着物の「糊置き」や「染め」を自分でしていませんでした。専門の職人さんに任せたほうが上手に仕上がりますし、分業が当たり前だと思っていたのです。ところが展覧会作品を制作していく中「自分で糊置きや染めをしないとダメだ」と、ことあるごとに友人に叱咤され、「何クソ!」という想いで実際にやってみたら「ああ、自分で染めるということ、糊を置くということとは、こういうことなのか」と実感しました。糊置き、染めを自分でする事により、図案の描き方も変わってくるのです。

自分で実践してみないと本質はわからない、実践し、ある程度の結果が伴ってきた時にはじめて、先輩や師匠に言われたことの本当の意味が分かってくるのだとおもいます。厳しい言葉もアドバイスも、今では感謝の一言です。

「継続」こそが心の拠り所になる
 内に外に目を向け加賀友禅を発信し続ける



――今、どんな想いで作品づくりに向き合っていますか?



太田正伸氏:
私の「ものづくり」の先にあるのは、手にした人の喜びです。それは着物であれ小物商品であれ、実際に着てくれる人や、使ってくれる人、扱ってくれる問屋さん、呉服屋さんなど関わる人全てに言えます。また、作品に込めた想いを押しつけるわけではなく、どのように感じて使ってもらえるか、より喜んでもらえるようにということを考えながら描いています。



また、加賀友禅の良さを知り、受け継ぐものの一人として、加賀友禅の魅力をより多くの方に感じてもらいたいという想いでやっています。一方で友禅の人間国宝、木村雨山先生をはじめ、先人の技法や教えを学び、それを弟子にも伝えて行く事が大切だと思っています。

自分の道を貫くのは、時に困難なこともあります。その時支えになるのは、「継続」続けて来た事です。自分がやって来たことは良くも悪くも、正直に表れると思います。いま、自分の道を信じ、進むため自分に嘘をつかず、とにかく一生懸命「継続」する事が心の支えとなっています。

――常に勉強、常に吸収……。



太田正伸氏:
終わりはありません。一つ作品を作りあげると、次の作品は、また、はじめからスタートです。その繰り返しの中で、自分が到達したところより、もっと先があることを知ります。そして、時には困難を乗り越えるため自分に負荷をかけていく……人生はよく山登りと例えられますが、喜びも、見える景色も変わってくるのでは。

個の力や集団での力を最大限に発揮しながら、同業種だけに留まらず工芸全体が活気つくよう業界を越え、異業種との交流も深めつつ、新しい加賀友禅の魅力を発信し続けて参りたいと思います。

(取材・文 沖中幸太郎)

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