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自分の色を塗り重ねながら近づく 17世紀より繋がる柿右衛門の伝統美

今回のお相手

温かみのある乳白色の磁肌に、鮮やかで日本画的な上絵付けが施される「濁手(にごしで)」。400年という永きに亘る有田焼の歴史とともに、17世紀より今も昔も多くの人に愛される作品を作り続けてきた名窯、柿右衛門窯。その伝統を受け継ぐのが、当代である十五代酒井田柿右衛門。襲名して4年目。現代の柿右衛門として考える、「今」と「これから」のものづくりへの想いを伺ってきました。

作品一覧

濁手 紅葉文 蓋物

濁手 団栗文 花瓶

濁手 唐梅文 花器


華やかな場面を演出する器づくり
使い手の喜びこそが、ものづくりの到達点



酒井田柿右衛門:
窯に入って約20年間。この間は、柿右衛門の伝統技術を受け継ぐことに専念していました。自分の芸術性を出し、世に問うて、その評価を次ぎに活かせるような段階ではなかったのです。個展を開くようになったのは、襲名後のことです。

最初に個展を開いた時は、初代から続く歴史の重みにプレッシャーも感じていましたが、少しずつ反応を確かめながら皆様に楽しんでもらえるよう、交流の場として続けてきました。構図を変えるだけではなく、新作を意識しており、野山を散策してモチーフを探したこともありました。また、たくさんの題材を持つ先代の作品も、伝統伝承の役割を果たしてくれました。

――個展を開くことが、新しい挑戦の原動力になる。



酒井田柿右衛門:
ものづくりをする者にとって、作品を目の前で手にとって喜んでもらえる機会はそんなに多くはありませんが、個展を開く事によって、さまざまな方々よりお声をいただけることは大変有り難いことだと思っています。

私も、「食器屋」として、華やかな食事の場に華を添える器づくりができること、それがおもてなしの場に使われ、皆様の笑顔に繋がっていく……。作り手として何よりの喜びだと感じています。

柿右衛門の特徴は、その余白にあり、先代も引き算だと常々申しておりましたが、私はそれを守りつつも、余白をしっかりと感じられる器の中に「賑やかさ」を感じられるものをと考えています。また、唐梅文(からうめもん)のように、柿右衛門の代名詞ともいえる「赤」を一切使わないなど、新しい色使いを探ることにも挑戦しています。そうした、さまざまな試みの中で、日々器づくりに向き合っています。

伝統の中で生きる「色」 現代への調和と未来への挑戦



酒井田柿右衛門氏:
「柿右衛門」は、言ってしまえば代々受け継ぐ、家業としての屋号に過ぎません。襲名したからと言って自動的に技術が上達するわけでも、ましてや偉くなるわけでもありません。「柿右衛門」の伝統とは、当主から技術を受け継ぐ職人さんと、使い手である皆様との交流であり、それが伝承される中で文化となっていきます。私は、そうした皆さんで作り上げた文化を受け継ぐ役として存在すると思っています。

一番の役割は、やはり、当主として柿右衛門の伝統を次代に引き継ぐことです。窯全体のレベルを、次代に繋ぐまでにどれだけ技術水準をあげていけるか。それは現当主の技術力でもあります。先代とは違った受け渡し方もあると思っています。16代となる私の息子は、まだ轆轤に足が届かない年齢ですが、高校生までに一通り教えたいと考えています。

技術の発達によって、材料や道具、大切な工程も、知らないうちに抜け落ちてしまうこともあるので、そこを見落とさないように。どのように、次代の柿右衛門に繫いでいくか。その受け渡し方こそが、柿右衛門の伝統であると思っています。私は、14代までの伝統を受け継ぎながらも、15代ならではの柿右衛門を皆様に、そして未来に届けて参りたいと思います。

――伝統の中で生きる、十五代の「色」とは。



酒井田柿右衛門氏:
伝統は、一方で個性との戦いであると考えています。伝統という枠の中で、何ができるか。まだ存在している自身の作家性といったようなものを、伝統の枠組みにどう落とし込んでゆくか。現代にいかに調和させていくか。先代や過去綿々と流れる伝統を受け継ぎながらも、15代としての色を出していかなければなりません。



今はまだ伝統を引き継ぐ段階であり、十五代としての柿右衛門はまだまだ模索中です。大きな伝統に近づく、その入り口に立っているというのが今の心境です。これから製陶を30年、40年、どこまでできるか分かりませんが、その間に十五代の、この時代にしかできなかった十五代柿右衛門の「色」を、伝統の中に塗り重ねて参りたいと思います。

(取材・文 沖中幸太郎)

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