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先人に近づき 自分の色で挑戦する

今回のお相手

江戸末期から受け継がれてきた伝統技に、新たなセンスを融合させた作品を製作する東京銀器伝統工芸士、銀師(しろがねし)の上川宗達さん。鍛金技法、彫金技術を駆使し模様に金を入れることで、華やかな桜を表現した、銀製 打込象嵌花器「夜桜」は、第7回全日本金銀創作展で受賞するなど、内外から高い評価を得ています。“音”や“感覚”で作り上げられる銀器の世界。その魅力と想いを伺ってきました。

作品一覧

純銀製螺旋蜻蛉湯沸

純銀製波紋器

打込象嵌花器「夜桜」


手間を惜しまず使い手に尽くす 



――どのような想いで作られていますか。


上川宗達氏:
何かの企画展に出品するような“作品”の場合は、ある程度時間をかけられますが、本業であるものづくりは、限られた時間の中でお客様に届けることが出来て初めて成立します。技術を高めながら「期限の中で、手間を惜しまず使い手に尽くす」ことを第一に取り組んでいます。

また、作品には精神状態が如実に表れてきますので、平静を保つように心がけています。興奮していれば、強く叩きすぎてしまうし、落ち込んでいれば、弱くなってしまう。厚みを均等にするために、一周、同じようにたたかないといけません。最初の数回で、「こういう風にたたく」というイメージを決めて、無心でたたきます。

長く使ってほしいので、“壊れにくさ”や“直しやすさ”も考えながら作っています。全国から修理依頼がきますが、へこんだところは厚みを残すなどして、品物の機能を損なわないように注意を払います。東日本大震災の時も、仏壇の花入れなどの修理依頼がありました。底が狭いものは倒れやすいので、仏壇の中の限られたスペースを活用して、倒れにくくしてお返しするなど、工夫を続けています。

先人に近づき 自分の色で挑戦する



――伝統を継承しつつも、工夫を重ねて。



上川宗達氏:
私たち伝統工芸に携わる職人にとって、昔に作られた作品こそが教科書です。けれども、その見方は自分の成長・変化に伴い変わっていきます。「同じだ」と思ってしまうと、それ以上のものは作ることができません。「どこが違うのか」を見ながら、工夫を重ねていかなければなりません。そうして先人に「近づいていく」。その上で、自分の色を出しながら良い作品を作っていく。そしてそれを次世代へと伝える、その繰り返しだと思います。

その繰り返しの中で、新たに出来ることを考え挑戦したいですね。今は、陶器や漆器を見ても、「銀で作ったら、どういう風になるのか」などと考えるようになりました。伝統を継承しながらも、さらに可能性を広げて、銀器の魅力を多くの人に感じてほしい。そして、その素晴らしさを国内だけではなく、世界の人にも感じてもらいたいと思っています。


(取材・文 沖中幸太郎)

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