本物へのこだわり 届けることの喜び
――近くで眺めるとより一層、人形のきめ細かな表情、着物の質感が分かります。
竹中幸甫氏:
うちの人形に着せる着物はすべて西陣織です。また、手も本物の木彫りを使っています。木彫りの前は、針金に和紙を貼って指を作り、そこに胡粉を塗っていました。着物の重ねが、寸分変わらず綺麗に正確に出ているのが特徴で、後ろの方まで美しく揃えています。一つひとつ細かく、大量生産では作れないものです。
それぞれの職人さんに作ってもらったものが私のもとに集まり、着物をまとめ、下拵えの胴組を作って仕上げ、最後に自分の納得した頭をさして、名前を入れます。作り始める時の色合わせなどは、妻とふたりで喧々諤々やりあっています。
時代によって、柄なども変化していまして、皇太子殿下がご成婚された時は、雅子妃殿下がお召しになられた着物とそっくりのもので作ったりもしました。その年々によって、柄も変えます。次の年には、古くさく見えたりしますので、前年と同じものはあまり作りません。
「初の節句に飾るものだから」と、心を込めてお雛様を作っています。買ってくれた方が喜んでくれることが、私の喜びでもあります。お礼状を頂いたりと、使ってくださる方の声が届くのは嬉しいですね。それから、50年も前の人形を修理に持ってこられる方もいます。代々、大事にされているのは大変ありがたいことです。
生涯現役の人形づくり
――人形づくりを通して多くの作り手、使い手の想いが感じられます。
竹中幸甫氏:
人形づくりも分業制ですが、それぞれの本物の作り手がいなくなったら、私たちが人形を作りたくても作れなくなります。例えば人形が持つ扇を作る人、笏(しゃく)や冠を作る人などがいなくなってしまえば、それでしまいです。最近は、だんだんそういう状態になってきていますが、職人さんがいる限り、私たちは本物を作り続けます。
今まで心不全、胃癌、膵臓の病気などで手術をしましたが、まだまだ生涯現役。妻の父親は、100歳までお店に立って仕事をしていましたが、私も同じように、いつでも飾ってもらえる本物の人形を、これからも作り続けていきたいと思います。
(取材・文 沖中幸太郎)