個展で見せる「北村和義」の挑戦
北村和義氏:
個展を開かせていただくようになったのは、今は亡き伊勢丹の元会長、武藤信一さんからのお声がけがきっかけでした。父との親子展の際、武藤さんが「個展を開かないか」とお声を掛けて下さいました。
親子展とは違い、父の作品に隠れるわけもいかず、「恥ずかしくないものを」と必死で取り組みました。ストレスのよる蕁麻疹(じんましん)が出て……、足どりは重いものでしたが、「今の自分ができる精一杯をしよう」と思いました。
最初はもがいているうちに終わっていた個展も、回を重ねていくうちに、ようやく北村和義を見ていただく、個展らしくなりました。会場に足を運んでくださった方々、そのきっかけを作ってくださった武藤社長、そういう方々のおかげで作品づくりが出来ています。今でも2年に一度個展を開かせていただいていますが、毎年来てくれるお客さんももちろんいますし、前回と同じものを見せるわけにはいきません。新しい作品を作り、自分の進化を見せなければならないという想いがあります。
――個展が、北村さんの原動力になっている、と。
北村和義氏:
頑張らなければいけない私の「試験」だと思っています。今のような作品づくりも、そうした九谷焼と自分に向き合うところから生まれました。父は北前船をテーマに、九谷の技法で作品を作っていますが、この船の絵の迫力と構図が、そのまま北村隆を表しています。私も、自分の顔となる北村和義の作品を作りたいと考え、色々と試行錯誤のうちに、昔から好きだった絵を作品づくりに活かそうと思いました。
作品に色を塗る前段階、下書きの線がとても綺麗なので、その線だけの状態を作品にしたいなとずっと思っていたのです。そうして呉須書きで書いたウサギをSNSで紹介したところ、おかげさまで好評を頂き、前回の個展ではそれを前面に打ち出しました。
九谷焼の魅力を伝える窓口に
北村和義氏:
伝統工芸というと響きはいいのですが、有名ファッションブランドとは違い、実際には足を止めてくれる方は多くありません。私が23歳で工房に入った時も、祖父祖母の世代の方は興味を持ってくれましたが、同世代は見向きもされなかったので寂しさを感じていました。同世代の方が興味を持ってくれるまで待っていたら、こっちが潰れてしまう。もっと若い世代にこそ伝統工芸をPRしていかなければいけない。
「九谷焼の新商品です」という見せ方ではなく、企業とのコラボレーションしかり、何か面白いものがある、それが九谷焼だという見せ方ができたら、同世代の方々も見てくれるのではないかと思っているのです。学生の頃から九谷焼と何かを組み合わせて作ることが好きでしたし、九谷の色入れ技術は日本一の技術だ、本当はかっこいいことなんだというのを見せたいのです。
昆虫シリーズや企業とのコラボレーション作品では、そうした九谷焼らしさ、色絵の細かさ、九谷の色の綺麗さ、金の質感、そういうものをたくさん使うようにしています。
――新しい作品づくりの中に、九谷焼の様々な魅力を込めている。
北村和義氏:
九谷焼の魅力は、上絵技術と技法、そしてそのアイデンティティの高さです。九谷焼の作り手として、その大きな座布団の上にいられるのは凄く有り難いことです。作り手だけでなく見てくれる方や手に取ってくれる方、全てが九谷焼を作っていると思います。
九谷焼の魅力や可能性は、ほかにもまだまだあると思っています。身につけるものや飾れるもの、「遊べる」ものなど、今までと全く形が違うものも出てくると思います。昔の九谷を精巧に映す技術をお持ちの方はたくさんいらっしゃいます。私は、九谷焼の魅力が詰まった新たな作品づくりを通して裾野を広げることで、その魅力を伝える一人になりたいと思います。
(取材・文 沖中幸太郎)