唯一無二であること、の意義
――独自のブランド“煌雅”はどのようにして。
望月煌雅氏:
大印展(大阪)に応募するようになった頃、大阪で活躍され、山梨に教えに来ていた日展特選作家である故二葉一成先生との出会いがありました。二葉先生には、“満月(=望月)が雅やかに煌めく“ように、と「煌雅」という雅号をつけていただき、さらに印章の持つ芸術的側面にも目を向けさせていただきました。
さらに2010年頃、問屋さんから「100年以上続く、手彫りでつくってくれ」という依頼がありました。その時、問屋さんが手彫りとスピンドル彫りの彫り賃の規格を別にしてくれたので、ゆっくり丁寧につくったものには“煌雅”の落款を押し、市場の相場に合わせたものは落款なしというふうにしていました。
「KOGA(煌雅)」は「ゆっくり丁寧に」をコンセプトとしています。ホームページを通して、お客様の声を直接聞くことができ、それまで機械彫りと競うようにしていた仕事を本来の形に戻しています。
――“煌雅”は、望月さんの印章づくりへの想いそのもの。
望月煌雅氏:
「いいもの」というのは人によって違います。お客様の中には「変わったもの」を求める方もいらっしゃいます。しかし、ただ「変わっている」だけでは駄目なんです。ある程度のルールを守りつつ、遊び心がある作品ということであれば、できるかぎりお応えしたいと思っています。手彫りのルールや、書体、印章の品格、といったことをお伝えして、その中から選んでいただくようにしています。
「今」に集中することで印章の道を切り拓く
――自分の想う仕事を積み重ねられています。
望月煌雅氏:
よく訊かれるのですが、実は私には目標も計画もありません。自分が今何をやりたいかによって、そのためには何をやるべきか、その連続で、「今」進むべき道を決めてきたように思います。
――望月さんの「今」は、どのような方向に。
望月煌雅氏:
今、力を入れているのは、“こらぼり”(ほかの伝統工芸と煌雅のコラボレーション)という企画です。第一弾は、甲州手彫印章と石川県の伝統工芸・金沢箔のコラボでスタートしました。ほかの伝統工芸の職人さんが仕上げたものは、それ自体でひとつの作品といえます。その作品に自分が彫刻を入れるのはプレッシャーでもありますが、とても楽しいです。これからもほかの地域の伝統工芸とのコラボを模索していこうと考えています。
また、実印、銀行印、認印に加えて“名刺印”(名刺手彫印)という新しいカテゴリーをつくりました。手彫りの名刺印を押した名刺は、受け取った方が温かみを感じ、アピール度が増すと思います。名刺のほか、はがきやメッセージカード、趣味で短歌や俳句などを詠まれる方は短冊に押すなど、楽しみが広がると思います。これからも、お客様と直接やり取りすることを大切にして、使っていても飽きのこない、愛着がわいてくるような印章をつくっていきたいですね。
(取材・文 沖中幸太郎)