“匠の心”を受け継ぐ将棋駒
佐藤稔氏:
天童佐藤敬商店は、先代である父佐藤権七(初代光匠)が始めました。父は13歳のころから一家の大黒柱として、子どものころから内職していた“駒書き”で家族を養っていました。そのうち、書くだけでなくみずから制作販売を手がけるようになって、店を興しました。
NHK杯で使用される将棋駒、一字彫が人気を博し、私も二代目としてそれを受け継いで、この天童で半世紀近くやっています。その駒は現在、「光匠作一字彫り駒(父・子二代の作品)」として、うちでも人気の品となっています。一時期、父のお弟子さんや従業員の方もいましたが、今は二代目光匠である私が手彫りの作品を作るのと、私が切った木地に家内が機械で彫るというふたつの形でやっています。この間も、小学生の時からずっとNHK杯を見ているという方がいらっしゃいましたが、そうした遠方からのお客様もよくいらっしゃいますね。
――こちらで制作されたものは、ネットでも取り寄せることが出来ます。
佐藤稔氏:
平成10年から13ヵ月に及ぶ入院生活を送り、その後リハビリ生活へと入っていた時期がありました。その間に商品の卸先等が少なくなったので、友人に相談したところ、ネット販売を提案されたのです。今までやったことのなかった新しい取り組みで、家内に相談すると、「やってダメだったら諦めもつく。やらなくちゃわからない!」と背中を押してくれました。最初は卸とネットの割合に大差ありませんでしたが、1年後にはネットが7割を占めるようになりました。
当初、ネットもメールもできなかった私でしたが、息子の嫁がお客様とのやりとりを模したメールの練習相手になってくれて、少しずつ覚えていきました。息子の嫁さんは鹿児島出身のすごく明るい子で……とても気が合うのですよ。
店が老朽化してきた平成15年に、友人の材木屋さんや桐箱屋さんの協力のもと、車庫兼倉庫を改造してもらって、今のような状態になりました。ずっとこの場所でやっていますが、最初はなかなか仕事を楽しむ余裕がありませんでした。子育てと夜中12時まで続く仕事の連続、二度の大病と、ネット販売の開始……大企業でもない小さな駒屋でしたから、いつもギリギリで色んなことが起こりました。売れる時には、その分、身を粉にして働くので、休日に何かしようという余裕もなく、こうやって家内と笑っていられるようになったのは、つい最近のことなのです。