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無限の可能性を秘めた“印伝”の魅力

今回のお相手

山梨県甲府市にある「印伝の山本」。現在三代目として活躍するのが山本裕輔さん。日常に豊かなデザインを手軽に取り入れることができる印伝は、さまざまな年代に愛されています。そうした「愛されるものづくり」はどのようにして生まれたのか。進化する伝統を生み出す山本さんの軌跡を辿ってきました。

作品一覧

手帳型スマホカバー

二つ折り財布

長財布


印伝の世界を自ら楽しむ



山本裕輔氏:
そうして、節目節目で将来、自分が印伝で生きていくために必要だと思うことを少しずつ積み重ね、この業界に“満を持して”入ることができました。最初の二年間、父のもとで修業を重ねていましたが、売り上げは順調でした。

しかし、3年目~4年目頃から売り上げが伸びなくなりました。原因を分析すると、商品ごとの売り上げ点数の減少とともに、そもそもの物産展の来場者、百貨店の来客数が減少していることがわかったんです。百貨店自体の経営が厳しくなり、百貨店同士の統合・合併、店舗の閉鎖といった動きが加速し始めた時期でした。自分たちの経営戦略を見直し、お店に足を運んでいただくにはどうすればいいか、を考えはじめました。

その頃から、積極的に“表”に出るようにしたんです。全国伝統的工芸品コンクールなどに積極的に出品する。情報も、みずから積極的に発信するようになりました。自分でまとめたプレスリリースを地方紙や記者クラブ宛に発信したんです。記者さんが集まる場にも積極的に出て行きました。

そうして徐々に、地元の新聞社さんから取材を受けるようになり、その記事を見た方々が来店してくれるようになりました。そうして少しずつ、今の経営の土台を積み上げてきました。



――常に動くことで、必要な取り組みがわかっていく。



山本裕輔氏:
そうして動くことができたのも、やはり自分自身が印伝の魅力に惹かれているからだと思います。印伝は、数ある伝統工芸の中でもすごく自由だと感じています。できあがりの状態は2D・平面ですが、そこから財布やスマートフォンカバー、さらにはオブジェクトなど色々な3D・立体構造に形を変えていくことができる……。まだまだできることがあって、これからが楽しみなんです。

一方で課題もあります。現状、甲府は印伝の産地として登録されていますが、それを知っている人はあまりいないように感じています。少なくとも、自分が届けたいと思う理想の形ではありません。印伝を伝え広めることによって、甲府を印伝の産地として定着させることが、やるべきことのひとつだと思っています。

実は印伝の原材料は、革も漆も輸入にたよっています。技術だけが日本のものという現状です。私は、国産にこだわったものづくりを実現するため、“ウルシナシカ”というプロジェクトに参加し、山梨県の資源を有効活用するために狩猟、捕獲された県産の鹿皮をつかった印伝づくりに取り組んでいます。このプロジェクトを成功させ、いずれ漆も革も国産のものを使った、本来の印伝の姿を取り戻したいですね。こうして課題をゲームのように「クエスト」として捉え、楽しみながら、これからも甲州印伝の世界に深く入り込んでいきたいと思います。

(取材・文 沖中幸太郎)

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